自分の住む町会の名前を背負って歩く深川地区の人々
観光庁は「観光地域づくり」の理念を「住んでよし、訪れてよし」の実現と表現している。この「住んでよし、訪れてよし」が、どのような状態を指すのか、代表的なわかりやすい実現例としては東京の下町地域が挙げられる。東京都江東区の門前仲町を中心とした深川地区に住む人は「地域の誇り」を共有している。地元大好きだ。俗に「深川八幡祭り」と呼ばれる富岡八幡宮の例祭では、各町会の名前の入った半纏を着た人で街はいっぱいになる。神輿を担ぎ、住んでよしの「地元自慢」をして歩くのだ。また、神輿を担がない人の多くは町会の名前のプリントされたTシャツを着用する。みな、自分の町会を自慢できる「地域の誇り」をもって生活している証だ。
2017年に江東区が発行した「江東区観光推進プランについて」によると、江東区を観光した来訪客の満足度は76.8%。全国平均と比較すると高い満足度になっている。また、再来訪の意向を持っている来訪者が93.1%と多くなっているのも特徴だ。「観光地域づくり」は「地域づくり」と「観光」が融合した考え方。観光庁は「自らの地域を愛し、誇りをもって暮らしているならば、おのずと誰しもが訪れたくなる移住・定住にもつながる」としている。江東区深川地区には、住民が移住者や観光客を口コミで呼び込む良い循環が出来上がっている。
東京の下町に暮らす人の姿は「観光地域づくり」理想形。深川地区は江戸時代の後半から、多くの移住者を受け入れてきた地域とされており、歌舞伎や落語に、その足跡が残されている。なぜ、深川地区で、このような風土が作られてきたのかを知れば、各地の「地域の誇り」づくりに役立つ。
都市農村交流課 プロデューサー 石井和裕

3年に一度の本祭りでは50基以上の神輿が町会ごとに担がれる。半纏の柄と色が町会ごとに異なる。